野球

野球における肩関節脱臼の術後は復帰できるのか?

野球での肩脱臼は,ヘッドスライティングのときやぶつかったときに起こります.
BAL
他のコンタクトスポーツと比較してまれではあります.
肩の脱臼肢位(前方脱臼)は過度の外転・外旋また水平外転とされています.
BAL
しかし,野球のようなオーバーヘッドスポーツでは,肩外転・外旋を強めて投球のパフォーマンスを発揮します.
そのため,野球での肩脱臼は他のスポーツと比較して,手術方法の選択も含めて慎重に考えていかなければなりません.
そこで今回は,野球における肩脱臼後の術後成績についての文献を紹介いたします!
BAL

本日の話題:
エリート,プロ野球選手の肩脱臼に対する鏡視下修復術後のプレー復帰について

肩関節前方脱臼では,下図のように前下方関節唇が剥離する病態であるBankart(バンカート)病変が生じます.

鏡視下バンカート修復術では,剥離した関節唇を元にあった関節窩に固定する手術です.

初回肩脱臼の治療法については賛否両論があるが,多くの場合でこの鏡視下バンカート修復術が支持されています.

先行研究では,20歳未満の若年者の肩関節の初回脱臼では,90%の再脱臼が生じ,特にアスリートでは手術が必要であると述べられています.

他の報告では外傷性の初回前方脱臼に対して,保存療法と手術療法を行った者の再脱臼率はそれぞれ47%,15.9%であったとされています.

さらに,保存療法を選択した場合,75%に肩不安定性が再発したのに対し,手術を受けた患者では11.1%に不安定性が再発したと報告されています.

このように若年者の初回脱臼では,保存療法を選択すると高い確率で再脱臼を経験します.

しかし,これまでのところ,野球選手の前方脱臼に対して鏡視下での手術を行った後の成績を報告した研究はありません.

したがって,この研究では野球選手の肩脱臼に対する手術後のプレー復帰について調査されています.

方法

2008年〜2015年に鏡視下バンカート修復術を受けた平均年齢20.9歳(19〜27歳)のエリート選手40名(大学20名,高校20名)とプロ野球選手11名の計51名を対象としてます.

フォローアップ期間は24ヶ月以上で,51例すべての患者は前方脱臼を有しており,MRIによりバンカート病変が認められました.

このなかから,鏡視下バンカート修復術を受けたバンカート病変を有する初回脱臼の野球選手以外は除外されました.

術後,1試合以上の公式戦に出場した選手を復帰(RTP),10試合以上の公式戦に出場した選手を確実に復帰(sRTP)としました.

RTPおよびsRTP率を選手jのポジション(投手,捕手,内野手)別に分析し,術後のRTPの期間を調査しました.

術後のリハビリテーション

術後,スリングにて外転位固定(30°)を5〜6週間実施しました.

最初の5〜6週間の固定期間中は,肩甲骨周囲筋の等尺性収縮運動,握力の強化,肘関節可動域訓練を実施しました.

5〜6週間目には,滑車を用いた愛護的な他動屈曲を伴うリハビリテーションを開始しました.

術後9〜10週目には棒を用いた外旋運動を開始し,12週目にはセラバンドを使用した筋力強化運動と軽めのウェイトが許可されました.

術後5〜6ヶ月には制限のない日常生活を許可し,ポジションや投球側,非投球側の違いに応じてスポーツへの復帰を許可しました.

選手は全員,経験豊富なアスレティックトレーナーのもとでトレーニングを受けました.

結果

投手14名(投球側5名,非投球側9名),捕手6名(投球側4名,非投球側2名),内野手31名(投球側11名,非投球側20名)でした.

全体のRTP率は82%,sRTP率は80%でした.

投球側の脱臼では,投手は20%のRTPと0%のsRTPを示し,捕手は75%のRTPと75%のsRTPを示し,内野手は82%のRTPと82%のsRTPを示しました.

非投球側の脱臼では,投手では89%のRTPと89%のsRTP,捕手では100%のRTPと100%のsRTPを示し,内野手では95%のRTPと95%のsRTPを示しました.

手術後の平均復帰期間は8.4ヶ月で,投手は9.6ヶ月,捕手は9.1ヶ月,内野手は7.4ヶ月でした.

考察

肩前方脱臼後に手術せずに復帰すると,再脱臼など不安定性が再発する可能性が高くなります.

先行研究では,アスリートにおけるバンカート修復術はオープンでも鏡視下でも良好な結果が報告されています.

野球における肩前方脱臼は他のコンタクトスポーツに比較して,まれな怪我ではありますが,脱臼を引き起こすメカニズムはよく似ています.

コンタクトスポーツとノンコンタクトスポーツ選手の鏡視下バンカート修復術後の復帰を比較した研究では,コンタクトスポーツの選手の再脱臼率は9%(22人中2人)であり,ノンコンタクトスポーツ選手21人では再脱臼は発生しなかったことが報告されています.

今回の51名の野球選手では,10名の選手が復帰できず,8名が投球側,2名が非投球側での脱臼でした.

投球側を脱臼した8名のうち,投手が5名,捕手が1名,内野手が2名でした.

投手は全員が以前の球速に達しませんでした.

しかし,1名の投手は復帰して公式戦1試合に出場しましたが,その後リタイアしました.

捕手と内野手1名は日常生活に支障はありませんでしたが,投球時痛はありました.

もう1名の内野手は別の外傷で,再度鏡視下バンカート修復術を行いました.

このように投球側と非投球側の関与は大きく,投手が最もRTPとsRTPが低いという結果でした.

手術後の可動域は2群間で有意差はありませんでした.

手術後でも投球側の関与は,特に投手において,修復された関節唇複合体に継続的なストレスと疲労が生じているため,復帰不良につながることが指摘されています.

その中で,固有感覚の欠如が主な原因であると考えられています.

筋力は投球側の成績不良の要因ではありませんでした.

またポジション別の可動域に差はありませんでした.

先行研究においても,オーバーヘッドスポーツの完全復帰率がノンオーバーヘッドスポーツの完全復帰率よりも低いことが報告されており,支持されています.

通常,術後4〜6ヶ月で復帰できるとされていますが,野球選手で公式戦に復帰できるようになるためにはもう少し長い期間を要する(8.4ヶ月)ようです.

特に投手では内野手や捕手よりも長い期間を要します.

結論,鏡視下バンカート修復術後のRTPは良好な結果を示しており,非投球側と内野手のポジションが最も良好な結果をもたらします.

鏡視下バンカート修復術を受けている選手と手術を行う外科医は,投球側か非投球側なのかと様々なポジション(投手,捕手,内野手)に応じて起こりうる結果を認識しておく必要があるようです.

 

文献タイトル

Park, Jin-Young, et al. "Return to play after arthroscopic treatment for shoulder instability in elite and professional baseball players." Journal of shoulder and elbow surgery 28.1 (2019): 77-81.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1058274618305123?casa_token=EYxf4L3KnmwAAAAA:0bEog40tbWl26Xb5wjckFe2ec3ewC0vf4lHn7Bjj900sffyxXqugBl7rhxpNBL--INUucfygI9c

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