野球

野球の投手における疲労について

BAL
前回の記事では,投球障害のリスクファクターということで,疲労を伴う中での投球というのが一貫して障害につながるということでした!

今回は疲労が投球にどのような影響を及ぼすのか,2019年のレビューから考えていこうと思います.

前回の記事をチェックしていない方はこちら!

青年期の野球選手における肩肘障害のリスクファクター ~2019,2020年のレビューから~

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2019年のレビューから

本日の話題:
野球の投手における疲労と投球時の運動学,パフォーマンス,傷害の発生の関係について

 

野球は1年中プレーされており,投手は大量の投球を行うことが多く,適切な休息とリカバリーを考慮しなければ,疲労が徐々に蓄積していきます.

前回の記事でも紹介したように,特定の年齢層に向けて最大投球数の推奨が設定されていますが,インターネットの調査から27%の少年野球コーチがこのガイドラインに従っていないことが確認されています.

数多くの研究では,疲労の予測因子 / リスク因子として,使いすぎ,速い球速,休息時間の不足,投球タイプなどが特定されており,これらはすべて運動学,パフォーマンス,身体の組織へのストレス,傷害に関連していることが示されています.

一回の疲労が怪我につながることはほとんどなく,疲労による負荷が積み重なり,身体には少しずつ変化が生じてきます.

そのことが肩肘にかかる負荷を増加させ,怪我につながるわけです.

野球で発生率が高い怪我の一つとして,内側(尺側)側副靭帯損傷があります.

この靭帯の再建(手術)後,回復に要する期間は平均20.5ヶ月と,復帰にとても長い期間が必要になってきます.

疫学調査では,少年野球の投手の46%が腕の痛みを伴いながら投球しており,82%の選手が試合や練習中の腕の疲労を報告していることが明らかになっています.

このように投球中の疲労が運動学やパフォーマンスの変化につながる可能性がありますが,これらの変化がどのようにして怪我につながるのか,正確なメカニズムは完全には明らかになっていません.

今回紹介するレビューで,疲労がどのような影響を及ぼすのか考えるいいきっかけになるかと思います.

それでは結果をスライドにまとめましたので,確認してみましょう.



結果

本レビューの主な知見は,運動学の変化がパフォーマンスの低下を遅らせることで,筋骨格系のリスクを高める可能性があることを明らかにしたことです.

これは面白い結果ですね.疲労を伴うなかでの投球では,球速などパフォーマンスを下げないように,身体の使い方を変化させており,パフォーマンスの変化が遅れて出てくるので,それが怪我のリスクの増加につながっているということです.

試合中,球速が下がっているときには身体では様々な変化が起きているということがいえるかと思います.

スライド右のフローチャートがこのレビューのすべてです.

身体にはどういった変化が生じているのか,運動学,運動力学,パフォーマンスの観点からみていきましょう.

運動学的変化

運動学の変化は,筋疲労の蓄積によって引き起こされる負の影響を身体が補おうとすることで起こります.

先ほどのスライドにもあるように,疲労が生じてもパフォーマンスが下がらないように運動学の変化が生じます,

具体的には筋疲労の蓄積に伴い,体幹の屈曲arm cocking phaseとacceleration phase減少し,肩と肘の運動学の変化も観察され,これらはすべて投手の怪我のリスクを高める可能性があります.

他には疲労の出現に伴い,最大肩外旋(MER)の減少,ボールリリース時の体幹前傾,膝屈曲角度が増加したとの報告もあります.

最適な運動学的パターンからのわずかなズレであっても,疲労状態で長時間投球することで,投手の怪我のリスクを高める可能性があると言われており,前兆として見逃せないところです.

運動力学変化

投球中の前腕屈筋群への影響を評価した研究では,疲労プロトコル後の投球において手関節の安定性を高めるために,acceleration phaseでの尺側手根屈筋の筋活動が有意に大きくなることが報告されています.

レトロスペクティブな分析では,試合中の最大の筋疲労は,橈側手根伸筋に発生することが確認されています.

また円回内筋浅指屈筋の疲労が増加していることも確認されていますが,肘を安定させ,外反トルクに対抗するために大きく貢献していることを考えると,注目に値します.

これらの筋疲労が増加すると,最終的には肘内側(尺側)側副靭帯損傷の可能性が高まるため,注意が必要ですね.

パフォーマンスの変化

数多くの研究で,野球の試合中の疲労による運動学の変化は,球速の大幅な低下につながり,その結果パフォーマンスに影響を与える可能性があることが指摘されています.

レトロスペクティブな分析では,疲労による球速の低下が確認されているだけでなく,被塁打率と被本塁打率が有意に上昇することも報告されています.

また試合後半になるとオフスピードや変化球の投球が多くなることも示されています.

そういったことから,投球のレパートリーが広い投手は,投球タイプの違いによる筋活動パターンの変化が多くみられるため,使いすぎや疲労による肘の怪我のリスクを下げることができます.

BAL
疲労が怪我のリスクを高めるメカニズムが学習できました!

プレーヤーとしては,チームの勝利に貢献するために頑張るものですが,

怪我してしまっては,元も子もありませんから,自分自身の身体の状態を知ることは重要です.

球速等変わっていなくても,疲労は身体の使い方を変化させるので,周りのコーチやチームメイトが気付いてあげることが必要になってきますね!



文献タイトル

Birfer, Richard, Michael WL Sonne, and Michael WR Holmes. "Manifestations of muscle fatigue in baseball pitchers: a systematic review." PeerJ 7 (2019): e7390.

https://peerj.com/articles/7390/?utm_source=TrendMD&utm_campaign=PeerJ_TrendMD_0&utm_medium=TrendMD

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