野球での投球は肩全体にかなりのメカニカルフォースを伝達するため,骨や軟部組織の構造に多くの反応をもたらします.


その大きな要素として考えられるのが,上腕骨の後捻角です.
肩の可動域と投球障害についての記事はこちら!
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肩の可動域は投球障害と関連するのか?
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本日の話題:上腕骨の後捻と投球障害について
上腕骨の後捻とは・・・
上腕骨は長管骨であり,近位部には球状の上腕骨頭が位置しています.
上腕骨長軸と上腕骨頭軸の成す角度を頸体角(上図左)といい,約135°とされています.
また,骨頭の軸は上腕骨内側上顆および外側上顆を結ぶ上顆軸の成す角度を後捻角(上図右)といい,約25°後捻しているとされています.
後捻角と年齢
上腕骨頭の後捻角は生まれた後の乳幼児期では約65°でありますが,骨の成熟にしたがって減少していきます.
しかしながら,その成熟過程で投球動作を伴うスポーツを行っていると,外旋ストレスが繰り返しかかることにより,成長による後捻角の減少の度合いが少なくなり,非投球側と比較して投球側の後捻角が大きくなっています.
後捻角と肩の可動域
後捻角が大きいと,肩外旋角度が大きくなります.
その上で野球選手の肩の回旋可動域については,さまざまな議論がなされています.


このようにオーバーヘッドスポーツの肩肘障害で認められる肩内旋可動域の低下について,後方タイトネスに起因するのか,骨組織の適応なのか議論がわかれるところです・・・
後捻角と怪我のリスクの関係
捻れの影響は一般的に水泳選手,バレーボール選手,ソフトボール選手,野球選手などのオーバーヘッドスポーツの場合を除き,5%未満の左右差を示します.
成長期のオーバーヘッドスポーツへの参加は,前述したように成人になるにつれて起こる捻れの自然な変化を遅らせたり,逆に強くする可能性があります.
後捻角と怪我のリスクについては,プロ野球選手では有意な関連があることが報告されておりますが,高校野球選手では有意な関連がないと報告されています.
またエリートバレーボール選手の可動域の違いに後捻角が有意に関連していないことも報告されています.
したがって,野球選手の後捻角と可動域,および怪我のリスクとの関連を明らかにするためにレビューを紹介します!
システマティックレビュー &メタアナリシスの結果
まとめ
- 上腕骨の後捻角と投球障害には関連がない
- しかし,後捻角が肩内旋に重要な役割を果たしているが,肩外旋,水平内転可動域には関連がない
- したがって,臨床的に肩内旋可動域は後捻角の影響(修正不可)と投球負荷による軟部組織の変化(修正可能)の組み合わせである可能性
- 肩の外旋や水平内転可動域は,軟部組織(後方タイトネスetc)の影響が大きい
- 後捻角の大きさとパフォーマンスには関連がない
文献タイトル
Helmkamp, Joshua K., et al. "The Relationship Between Humeral Torsion and Arm Injury in Baseball Players: A Systematic Review and Meta-analysis." Sports health 12.2 (2020): 132-138.