
義足で走っている人を想像してみてください.
多くの方は,下の写真のような走るためにデザインされた義足(以下,走行用義足)を想像したのでないでしょうか?

しかし走行用義足は,全ての切断者の方が所持しているほど一般的ではありません.
ですので義足を使ってが走るという場合,それは必ずしも走行用義足を指しているわけではなく,実は日常用義足を指していることも全然あるんです.
【本日の話題】日常用の義足で走ってもいいのか?
【はじめに】
- 走行用の義足を手に入れることは一般的ではないため,走るにしても日常用の義足を使用するしかない
- しかし日常用義足は走行用にデザインされていないため,何かの傷害につながる可能性もある
【対象/方法】
- 対象は,下腿切断者(膝より下の切断者)と非切断者を各13人
- 日常的に使用している義足(以下,日常用義足)と走行用義足を使って走行動作や床反力(地面から足に加わる力のことです)などを測定
- トレッドミルで5段階の走行速度(2.5 m/s 〜 5.0 m/s)の違いも検討
【結果】
- 日常用義足は,走行用義足と比べて,どの走行速度でも小さなエネルギーしか蓄えて反発することができなかった
- 日常用義足は,走行用義足と比べて,走行速度が4.0 m/sと5.0 m/sの時に垂直分力が大きかった
- 日常用足部は,走行用義足と比べて,床反力垂直分力が大きくかつ床反力前方成分が小さかった
- 日常用足部は,走行用義足と比べて,床反力内外側成分が小さかった
日常義足 の特徴(vs 走行用義足)
- 前方への推進力は低い(全ての対象が日常用義足でもエネルギー蓄積型足部を使用していましたが,さすがに走行用義足には敵いませんでした)
- バランスを崩しにくい=安定している
今日のひとこと!

日常用義足にも限界があるのは確かなようですね.より速く走るためには走行用義足に軍配が上がるのは当然のことです.
今回重要なのは日常用義足でも十分走れること,そして走行用義足よりも安定して走れることができる,ということが示唆されたことだと思います.

ただし!文献中には4.0 m/sと5.0 m/sのとき日常用足部で走ることができなかった対象がいたそうです.
加えて義足は本来走行用には設計されていないため,部品の寿命を縮めることになる可能性もあります.
本格的に走ってみようという方がいらっしゃれば,理学療法士や義肢装具士に相談するのが一番安全であることは知っていただきたいですね.
文献タイトル
Sepp, L. A., Baum, B. S., Nelson-Wong, E., & Silverman, A. K. (2020). Joint work and ground reaction forces during running with daily-use and running-specific prostheses. Journal of Biomechanics.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021929020300361