

肩の可動域については,慎重に考えていかないといけないので,このレビューを参考にしましょう!
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2018年のレビューから
本日の話題:
肩の可動域は投球障害と関連するのか?
はじめに
野球選手の肩や肘の怪我は根強い重大な問題です.
1000 athlete-exposures ※ あたりの傷害発生率は,高校野球選手では4.0,大学野球選手では5.8,プロ野球選手では3.61と肩肘の怪我の発生率は増加しています.
※ athlete-exposures;1人の選手が 1 試合もしくは 1 回の練習に参加した場合 を1 athlete-exposureとする
これらの怪我の原因としては,全体的なプレー量の増加や肩の可動域の変化などが挙げられます.
投球動作は肩の筋などの軟部組織や骨構造に影響を与える可能性がある複雑で要求の高い運動です.
投球と肩の構造的な変化により,投球側と非投球側の可動域の違いは,ハイレベルの投手に必要な適応です.
肩の可動域の変化は多くの交絡因子を持っており,十分に明らかになっていません.
野球における肩の怪我は,選手,コーチ,保護者,スポーツ医学に関わる者にとって重要な問題であり続けています.
いくつかのグループが上肢障害のリスクファクターをプロスペクティブに検討してきましたが,その結果は様々で肩の可動域が上肢障害のリスクファクターであるかどうかは明らかにされていません.
そこでこのレビューは文献の方法論の質とエビデンスのレベルを批判的に評価し,野球選手の肩の可動域と上肢障害のリスクとの関係を調査したものです.
上肢障害と関連があった肩の可動域
合計6本の論文がレビューの包含基準を満たしていました.
メタアナリシスの結果・・・
上肢障害と関連があった肩の可動域の項目
内旋可動域:44°以下(左右差5°以上)
全回旋可動域(内旋+外旋):160°以下(左右差8°以上)
上記は上肢障害予防プログラムを立案する際に考慮すべきであることが明らかになりました.
したがって,これらの項目は上肢障害のリスクを減少させるために,ベースラインおよびスポーツ復帰のためのスクリーニングの一環として測定されるべきです.
試合中の投球数や球種は痛みと関連していたとの研究もありました.
そこでは内旋可動域の低下は,後方タイトネスと上腕骨の後捻角の増加に関連付けられています.
インターナルインピンジメントを有する投手は健常な投手に比べて肩後方タイトネス(水平内転と内旋制限)が大きくなっています.
また,肩後方タイトネスの増加は,投球時の肩峰下の接触圧と接触面積を増加させるため,投球中の腱板損傷のリスクやバイオメカニクスに影響を与える可能性があります.
肩全回旋可動域の減少は,肩内旋可動域の減少と相関しており,肩内旋可動域制限は投球障害の要因であることが示されています.
このことは,肩全回旋可動域が野球選手の上肢障害のリスクファクターであることを示唆しています.
興味深いことに・・・
肩外旋可動域は上肢障害と関連がありませんでした
肩外旋可動域には,上腕骨の後捻角が関係しており,肩外旋角度の変化はハイレベルな投手に必要な適応であると報告されています.

上腕骨の後捻角は肩の怪我と負の相関を示しており,肩関節の保護に役立っているともいわれています.
さらに外旋の左右差の24%,内旋の左右差の16%を説明するとの研究もあります.

まとめ
- 肩の可動域のなかで,内旋可動域と全回旋可動域が投球障害と関連していた
- 内旋可動域は44°以下,全回旋可動域は160°以下はリスクファクターである
- スクリーニングでは上記の可動域に加え,内旋可動域では左右差10°以下,全回旋可動域では左右差15°以下を目安にするとよい
- 肩の外旋可動域は投球障害と関連がなかった
- 外旋可動域はハイレベルな投手に必要な適応であり,後捻角の影響も関係してくるため今後さらなる調査が必要である
文献タイトル
Bullock, Garrett S., et al. "Shoulder range of motion and baseball arm injuries: a systematic review and meta-analysis." Journal of athletic training 53.12 (2018): 1190-1199.
https://www.natajournals.org/doi/full/10.4085/1062-6050-439-17