はじめに
全米大学体育協会(NCAA)によると,上肢の傷害が試合中で18.3% ,練習中で21.4%を占めています.
オーバーヘッドアスリートは100%の機能でそれぞれのスポーツに復帰することを目標に,理学療法士などリハビリテーションの専門家に治療を求める可能性が高いです.
最も一般的な傷害には,スポーツのオーバーヘッド動作の反復による肩甲骨周囲の筋疲労,神経生体力学的変化などの結果,主に肩甲上腕関節,肩甲胸郭関節に認められる筋力低下と運動制御の低下が含まれています.
肩関節のインピンジメント症候群の保存治療の有効性を検討する研究はいくつかありますが,オーバーヘッドアスリートのための運動処方をサポートするためのエビデンスは不明です.
方法
2016年7月8日までの期間におけるシステマティックレビュー
包含基準:①オーバーヘッドアスリートのグループであること②肩の傷害や痛みが含まれていること③運動介入の詳細な記述があること④分析的な要素が含まれていること(痛みや筋力,可動域など少なくとも1つのレベルの障害)⑤フルテキストで入手可能であること⑥英語で出版されていること
専門家の定義としては,オーバーヘッドアスリートを専門的に治療した臨床経験を5年以上有しているか,整形外科,スポーツ理学療法,またはそれと同等の国際的な臨床専門家として認定されているものとしていました.
エクササイズは以下のように分類しました.
・上肢挙上90°以下のエクササイズ
・上肢挙上90°以上のエクササイズ
・閉鎖性運動連鎖のエクササイズ
・詳細不明のエクササイズ
・等速性エクササイズ
・プライオメトリックエクササイズ
・体幹-下肢の運動連鎖エクササイズ
・スポーツに特化したエクササイズ
エビデンスレベル
レベルⅠ:ランダム化比較試験
レベルⅡ:コホート研究
レベルⅢ:症例対照研究
レベルⅣ:症例シリーズ
レベルⅤ:症例研究または臨床的な説明も含む専門家の意見を示すもの
エビデンスの評定システム
グレードA:レベルⅠで一貫した所見(>2)
グレードB:レベルⅡまたはⅢ(>2),またはレベルⅠで一貫した所見( ≦2 )
グレードC:レベルⅣ(>2)またはレベルⅡまたはレベルⅢでの所見( ≦2 )
グレードD:レベルⅤ(>2)
グレードF:レベルⅤ( ≦2 )またはレベルⅤでの所見が矛盾している
※バイアスリスクが中程度または高いと評価された研究については,エビデンスレベルを1段階下げた
結果と考察
合計39の研究がレビューに含まれた.
報告されたアウトカムのなかで,筋力の変化(ピークトルクも含む)が最も報告され,次いで主観的な痛みが報告されました.
どの研究でも競技復帰のアウトカムは報告されていませんでした.
公表されている文献の質が中程度であるということが問題として挙げられます.
そのため,オーバーヘッドアスリートへの運動処方に関する現在のアドバイスは,ほとんどが臨床的な説明や,研究に基づいた強力なエビデンスを持たない現場の専門家による一般的な局所レビュー記事として報告されています.
さらに,オーバーヘッドアスリートを含む多くの研究とアウトカムデータは,使用されたリハビリテーションプロトコルの詳細な説明が報告されていないため,除外されています.
利用可能な最も強力なエビデンス(グレードBとC)は,肩の傷害があるオーバーヘッドアスリートへのエクササイズとして,挙上90°以下で行うシングルプレーンでのエクササイズ(たとえば,ニュートラルでの肩外旋,腹臥位での伸展)の使用を支持しています.
専門家の意見(レベルⅤのエビデンス)には,運動連鎖にもっと注目し,より多様なエクササイズが含まれていました.
臨床の専門家によって特定されたエクササイズは体幹-下肢の運動連鎖エクササイズとプライオメトリックエクササイズ,バスケや投擲,野球,
テニス,水泳などのスポーツに特化したトレーニングプログラムがより重視されていました.
オーバーヘッドのスポーツでは,下肢-体幹を含めた運動連鎖の観点が重要であり,エビデンスレベルⅤでは,スポーツ に特化したリハビリテーションプログラムに全身的なエクササイズ(抵抗バンドを使った肩外転/外旋を伴うラテラルランジエクササイズ,セラボールを使ったサイドプランク)を組み込むことを支持しています.
しかし,これらのリハビリテーションの構成要素を臨床現場に確実に導入するためには,研究に基づいたエビデンスが必要です.
さらに速度や位置,運動面,負荷,持続時間などをサポートするための研究ベースのエビデンスが必要です.
文献タイトル
Wright, Alexis A., et al. "Exercise prescription for overhead athletes with shoulder pathology: a systematic review with best evidence synthesis." British journal of sports medicine 52.4 (2018): 231-237.